Matter Mind Meaning

思ったことを忘れてしまわないように書き留める

類推

人間の思考における類推の役割について論じる。類推とは、異なる概念の間に共通点をみつけ、一方の概念についてわかっている知識を、もう一方の概念に適用する認知的過程である。類推は人間の思考において中心的な役割を果たす。

表面上、関係が無いように見える事柄を同じ言葉で表現することは、言語の使用において広範に観察される。以下の例での、開く、及び、開けるという単語の意味について考えてみよう。

a ドアを開く
b 本を開く
c コーヒーを開ける
d 心を開く

それぞれの例において、動詞が表す物理的動作は全く異なっている。aの例では、「開く」は、ドアノブを握って、腕全体を押したり引いたりする動作を指すのに対し、bでは本の上半分のページを180度回転させる動作を指している。また、cの例でコーヒーの缶のタブを人差し指で引くことを指しており、腕の動作は重要視されない。最後の、eの例では、そもそも身体的運動が伴わっていない。

このように同じ言葉が使われていても、厳密な意味に明らかな違いがあるという例は、自然言語において広範にみられる。むしろ、このような性質を持たない言葉を見つけるほうが難しい。数学やプログラミング言語などの形式言語では、自然言語の場合とは異なり、意味の多様性は存在しない。

「開く」の例のそれぞれの文は、厳密には意味が異なるとはいえ、それらの意味の間には多くの類似性があるように思える。このような類似性を人間の心が認識することは、いったいどのように認知に役だっているのだろうか。

この問題に関する答えは、類推を行う能力と密接に関係する。すなわち、異なる概念間の類似性を認識することは、類推の使用を可能にする。これが概念の理解を用意にする。

具体的にこのことを説明する。

容器を開くと、その容器の中にある内容物が外に出ることが可能になる。

この性質から類推を行うことにより、以下の事柄が理解される。

a ドアを開けば、部屋の中の人が外に出ることが可能になる

b 本を開ければ、書いてある内容を読む人が取り出すことが可能になる

c 缶を開ければ、コーヒーが缶から出ることが可能になる

d 心を開けば、心の中にある思いを周りのひとが取り出すことが可能になる

このように、ベースとなる基本的な概念に関する知識を、類推によって他の概念に適用することによって、理解が促進される。